神風浪漫娘サイドストーリー「松の行動」

!!注意!!

この物語は神風浪漫娘第一巻を読み終えてから読まれることをオススメします。
第一巻の内容のネタバレがかなり発生しています、ご注意ください!

「え? この時期に入学してくる子が居るのかい?」
松風は授業中にも関わらず中庭で女学生と会話をしていた。気まぐれな松風は授業に出ないことが多い。だが、成績はどの生徒よりも良く、そのこともあってか教師からは諦められていた。もちろん、一緒に居る女学生は後でこっぴどく叱られる。だが、女学生にとっては授業よりも松風と会話をするほうが優先度は高いのだ。
「はい、松風様。なんでも田舎者だとか」
「へぇ……けど、この時期ってことは特別な子だよね。興味あるな。名前はなんて言うの?」
「神風、と言うそうです」
「神風か、良い名だね。ありがとう、僕も少しだけ様子を見てみることにするよ」
「は、はい!」
そう言うと松風は歩き始め、職員室へと足を運んでいった。

「失礼するよ」
職員室の教師たちは驚きもせずに、松風を無視していた。というのも、これも同じように松風は自由気ままに動いていることを黙認しているからだ。もちろん、風紀的には良くはないと思っているが、何度言っても松風のほうが言いくるめてしまう。
そう、松風は妙に説得力のあるよう言うのが得意なのだ。
「御機嫌よう、大西先生」
「なんだ、松風か。何か用か」
「先生は今度入ってくる神風嬢についてご存知かい?」
「ああ、知ってるも何も担当は俺だからな」
椅子に深く腰掛け、タバコに火をつける。松風の胡散臭い笑顔を見ながら、元々持っていた資料に目を向けた。
「それは神風嬢の?」
「勝手に見るなよ、一応機密事項だからな」
「僕達の存在が機密事項みたいなものさ。だから、機密事項は他の機密事項に触れる権利がある、そう思わないかい?」
一応教師と女学生の関係……だが、松風はお構い無しに、まるで対等に相手するよう話す。大西は頭をかきながらも、資料をしまいこむ。
「駄目だ駄目だ、妙な噂が広まるのは勘弁だからな。松風、お前も悪趣味なことをしてないで大人しくしていると良い」
「僕はいつだって大人しいさ? 神風嬢が来ても僕はすぐには手を出さないよ、すぐには、ね」
「……はぁ、ってことは手を出すってことかよ」
「神風嬢が面白い子だったらね」
「それなら約束しよう、きっと松風が気にいるような子だろうな。なんせ本気で艦娘を目指すような子だしな」
大西は事前に聞いていた。神風がどのような性格で、どのような志を持っているのかを。だからこそ、担当は大西になっていたのだ。
「ほほう……? それは楽しみだ。……お? それは、春風嬢だね」
「だーもう、見るな見るな」
「春風嬢と神風嬢を合わせるのかい? それは愉快だ。きっと面白い化学反応を見せると僕は思うな」
「んなこと分かってる」
みるみるうちに大西の机が綺麗になっていく。基本的に見られてはならないものは片付けるのが鉄則ではあるのだが、大西は如何せん整理整頓が苦手なのだ。
「神風嬢が来たら、春風嬢とも仲良くなってみたいね」
「……はぁ、ただでさえ春風は他より浮いてるんだ。それが松風とってなったら、余計に面倒なことになるぞ」
大西にとっての本音ではあった。これは春風を思っての発言ではあったが、それ以上に面倒ごとはなるべく避けたい。
大西は誰よりも艦娘を生み出すことに熱意を持っている。だが、それをあんまり人には言わない。知っているのは大西の上司である人物と……この松風だけだった。
「ふふ、それを言うなら僕だって浮いてるさ。まぁ、妙に人気はあるけれどもね。そこの違いは些細なものだよ。もっとも、誰も僕が本気で艦娘を目指しているなんてこと、誰も信じてくれないけどね」
大西が上を向きながら煙を吐く。松風は学内でもかなりの人気を誇る女学生だった。ミステリアスな言動と、気まぐれで、教師すらも言いくるめる強さが女学生からは人気を集めていた。
一方で春風はと言うと、艦娘を目指しているが故に浮いていた。春風自身が目指していると公言したことはない、ただ春風の父親が外交官であるが故に、この噂は一瞬のうちに広まったのだ。
ただし、春風は気にしてはいなかった。一人で勉学を務め、いつか立派な艦娘になることを夢見ながらも……たった一人で戦ってきた。もちろん、松風はそのことを知っていた。故に、昔から春風のことは気になっていたのだ。
しかし、自分の行動で春風が傷つけるのは嫌だった。松風を良く思っている者が、春風に対して何か行動を起こす可能性があったからだ。なので、今回神風がやってくることによって、その活路が見いだせるなら、松風にとっては最高の機会だったのだ。
「松風はどうしたいんだ」
「僕かい? そうだね、艦娘になりたいよ。先生は僕を艦娘にしてくれるかい?」
「……そりゃしてやるさ、松風がなりたいならな」
「頼もしいね、大西先生は」
「まぁお前みたいなのは珍しいからな」
「先生みたいなのもね?」
「……ふー」
口が減らない松風。大西は内心頭を抱えながらも、厄介なのに目を付けられたと思うのだった。

松風は寮で生活をしていた。部屋は二人部屋だったが、もう一人は長い間留守の為実質一人部屋だった。そんな部屋に一人の女学生が来ていた。松風のことを慕っており、何か情報があるとすぐに伝えてくれる子。松風は最初こそはそんなことをしなくてもと言っていたが、彼女は頑なに活動を続け、とうとう松風のほうが諦めた。もっとも、この女学生は松風を好む他の女学生から目の敵にされているが、気にせず松風に情報を与えていた。
「ほうほう、つまり神風嬢はこの寮にやってくるんだね。そういえば春風嬢も二人部屋だったのに一人だったね」
「はい、なので松風様の仰る通りかと」
「ふむ、これはもっと面白くなりそうだ」
松風は手に持っていた手記をパタンと閉じ、女学生に笑顔を見せる。
「ありがとう、いつも助かるよ。だけど無理はしていないかい?」
「いえ、していません……」
「そうかい? 君、付けていた髪留め、どうしたんだい?」
「それは……」
必死に隠す女学生。松風はもう既に分かっていた。
「……これ以上、僕とお話すると」
「良いんです。松風様とこうしてお話出来る時が、私にとっては幸せな一時なんです!あっ……申し訳ございません、わたくし、こんな……大声を」
「良いんだよ。そうだ、僕の髪飾りを一つあげよう。もし、この髪飾りも盗られてしまったら僕に言うと良い。些細ながらも恩返しとして、いくらでも用意しておくよ」
「松風様……」
女学生の頬は赤くなっていた。
利用をしている、と言えば聞こえが悪いが、松風と女学生の関係はお互いに利のある関係であった。もちろん、女学生の抱えるデメリットは高いが、それをも上回るメリットを松風が与えている。よって、この関係は長く続いていたのだ。
「それじゃあ、また明日ね」
「は、はい!」
女学生は松風の部屋を後にする。扉が閉まると、松風は一息つき、窓の外を見る。
「……ふふっ」
少しずつ、変わっていく日常に胸を高鳴らせる。これほどまで人を待ち遠しいと思ったのは無い、そう思う松風であった。

数日後。神風はやってきた。松風は早速様子を伺いに学校を歩き回る。
「ヘイ、ユー」
すると一人の女性に話しかけられる。松風は見たことのない女性だったが故に、姿勢を整えて相手をする。
「こんにちは、どうされましたか?」
「こんにちはネー、貴女が松風ちゃんかナ?」
「あはは、わたくしのお名前をご存知とは恐れ多いですね。どういったご用件でしょう?」
「アレー? もっとボーイッシュと聞いたいたんだけど、違ったかしら?」
なるほど、と松風は思い、いつも通りの口調に戻す。
「……ふぅ、分かったよ。いつも通りにお話します」
「オッケーイ! アウチ! ご紹介遅れたわ! ソーリー! 私の名前は金剛デース」
「ああ、あの金剛さんでしたか」
松風は耳にはしたことがあったが、見るのは初めてだった。艦娘だったが故に写真では見たことがあったが、松風自身人の顔を覚えるのはいまいち得意ではなかった。……益になる相手だけ顔を覚えるのがモットーだ。
「それで、艦娘の金剛さんが僕に何か御用ですか?」
「君のファザーとちょっと縁があってネ。君のビッグシスターにも会ったことがあるんだ。それでリトルシスターである君の顔を一目見たいと思ってたネ」
「父上と、姉貴のことをご存知なのですね」
松風は少しだけ表情が崩れたが、すぐに戻した。金剛はその様子を見逃すことなく、にやりと笑う。
「ふふっ、そういうとこファザーにそっくりネ。顔に出さないとこはビッグシスターのほうが得意だったかな?」
「僕はこういうのが苦手なんですよ」
「ユーモアなジョークね! 噂はティーチャーから聞いてるよ!」
……松風は思った。この相手分が悪いと。常に自分の一歩先に行っている、そんな気がした。
「ふふ、噂は噂ですから。それでは僕はこれで」
「ウェイト! ユーは神風のこと知ってるネ?」
「……ええ、噂程度ですが」
「ふふん、なるほどネ。ドンウォーリー! それだけネ! シーユー!」
言いたいことだけ言ってから、金剛は消えてしまった。金剛がどうして神風について聞いたのか、この事を松風が知るのは当分先のことだった。
(……金剛さん、ね。艦娘となれば一筋縄でいかないか。僕ももっと口が達者にならないと)
持っていた手記に備忘で書きながら、松風はまた自由に歩き始めた。

神風の噂はあっという間に広まった。情報網を展開するまでもなく、神風、そして春風のやったことは松風の耳にも入ってきたのだ。流石に初日からここまでやることは松風にも予想外ではあったが、松風はより一層早急に動かなければならないと思った。
「ふふ、面白いなぁ。これから楽しみだな」
松風は神風の居る教室の前に立つ、扉を開き、新たな物語を広げて行くのであった。